今日学校帰りに歩道の石を蹴った。
彼女はふてくされた顔で屋台のたい焼きを買ってきた。
セーラー服を脱ぎ散らかして、携帯電話を放り投げる。
学校でつまらないことがあったから。
ほんの些細なことで同級生と言い争いになった。
本当につまらない原因。
スウェットスーツに着替えてからベッドに突っ伏す。
ボム
グスグス泣きながら熱いたい焼きを食べる。
あんこが少ないなとか思いながら、彼女は明日の身体測定を気にする。
弟のタイゾウが不登校でひきこもりだから、親がいつも怒っている。
変に優しくして甘やかしてはいけないと言う親。
彼女は知っている。
誰もが寝静まった深夜2時、タイゾウが一人で出かける。
最近毎日だ。
ある日気になって彼を尾行した。
暗い夜道で彼女は何回かコケたが、彼は夜目が良い様だ。
町外れの小高い丘を駆け上ると階段の先に、広い展望台がある。
いきなり現れた彼越しの満天の夜空に、心がときめいてしまった。
「うわあ・・・」
「おねーちゃん!」
タイゾウが驚いて振り向く。
彼は寝巻きのままここに来ているようだ。
周りに高い建物がないから夜空が天の川一色だ。
学校の理科の教科書で見たような星の地図が目の前に広がる。
彼女はコンクリの踊り場で黙って踊りだした。星がお客に思えた。
「おねーちゃん」
何も会話はなかったが、何も問題は起きなかった。
一時間ほど二人並んで天の川を眺めてから言う。
「綺麗だねタイゾウ」
「うん」
それから毎日の会話は無い。
でも知っているから。弟が人生を諦めてはいないことを。
朝が来るまでの瑠璃色の空、ベッドで天井を見つめる。
明日はあの娘にどんな顔で会えば良いんだろう。
ごめんと一言が言えない。
たった一言が言えないだけでこんなに困るのに。
あれからいつも天の川銀河を思い出す。
夜はいつも静かだ、ここらへんはへき地だから。
誰かといっしょがいいな。ひとりぼっちはさみしいから。
弟はいつも一人で泣いているのに、親に何も文句を言わない。
「星に話しかけるのかな」
ほかの同級生の娘と話したこと。
遠足でフェリーに乗ったとき。
「ねえみっちょん」「あの水しぶきは生きてるのよね」
「ええ?」「確かに生きてるように見えるよねえ」「あははは」
なんで記憶はあるのかな。
なんで都合よく消えたり覚えたり出来ないんだろ。
「・・・・」
がば
またあの展望台へ行きたくなった。
今度はコケずに来られたが、タイゾウは居なかった。
時間が違うのだろう。
「うわあ」
今日も快晴の満天夜空だ。
「ふんふんふん♪」
誰かに見られてたらなんて踊る理由には成らないよ。
今夜は私も寝巻きだ。ひきこもりってイカス・・・
朝までこうしていたいな。何も考えずに。
「星のお客さんは何億人?」
明日の朝が来たら、また学校であの娘に「おはよう!」て言おう。
いつもの笑顔で。